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4.4.4 構造形成
(1) 生体の形態形成
これまで述べてきたように平衡状態から遠く離れた熱力学的系は、空間パターンを自発的に形成する。さらに、時間的にも情報を作り続ける。しかし、生物は対流系のようにただ「平衡から遠く離れた非線形システム」ではない。原始的な多細胞生物であるヒドラの研究から、「生きている状態」の特徴が調べられている(沢田,1993)。
ヒドラは再生力が強く、ヒドラを高い浸透圧を有する溶液につけて細胞をバラバラにしても再び細胞集団からヒドラの個体が形成される(図4-31)。初期の状態では、細胞間に何らコミュニケーションは存在せず、機械的に固まっているだけである。しかし、細胞の間で内側と外側を形成する細胞選別が実現し、さらに頭部構造が現われて再生が終了する。
ヒドラの再生でもう一つ興味深い点は、細胞間にわたる神経の発達と情報の生成である。解離したヒドラの凝集体では、シナプスと呼ばれる神経細胞の結合部につながる神経の数はゼロであったものが、形態の再生と共にこの数が増大する。特に頭構造の形成の時期にこの結合数は急激に増加する。神経を走る電気パルスも発生する頻度が増し、神経回路網の複雑さと生成する情報(パルス)の多さとに明確な対応が見られる。
ヒドラの実験で分ったことは、生体としてのヒドラは、構造の形成と神経による情報発生の両方が一定の複雑さに達した時にその機能を認めることがきでる。すなわち、「生きている状態」とは、構造の維持と情報生成の二つの因子によって定まるものであると言える。

 

(2) 学ぶべき生命の機能
? 拡散−反応ダイナミクス
Turingは1952年に、原始的な多細胞生物ヒドラが、強い再生力を持ち、外乱に対して規則的な形態を安定に復元するのを見て興味深いモデルを考案した。これが「拡散に助けられた構造発生」という、非線形現象に普遍的なTuringシナリオである(Harrison,1993;沢田,1993)。
Turingシナリオでは二つの因子、すなわち構造形成を促進する活性化因子および構造形成を止める抑制因子である。ヒドラを例にして言えば、頭をつくる化学物質とそれをおさえる化学物質を考える。Turingシナリオは、この二つの因子のうち活性化因子の拡散定数は小さく、抑制因子の拡散定数は大きいとする。このためいったん頭部が現われれば、抑制因子は速く周辺に行き渡るため、他の場所には頭ができにくい。

 

 

 

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